2021-01-01から1年間の記事一覧

アラン・ド

『オー!スジョン』を観て、初めてセックスしたときのことを思い出していた。いや、思い出そうと試みていた。 どうせ、考えてること同じでしょ。そんな台詞をかけられながら床に横たわったような憶えがする。肩を押されてベッドに横たえられたような気もする…

ロマン

人に興味がある。うわべにはあらわれない深い底の中にひとりきりで沈んだとき、人は何を考えて、何を決めるのか。目の前の人に対してそのことを一度でも想像すれば扱いきれないほどの好奇心に駆られる。だから、常軌を脱したような人に一度会ったなら、とた…

le dimanche

頼まれてテイクアウトをとりにいった日に早口のフランス語を話してた店員のひとたち、テーブルには開いたMacBookに字幕つきのYouTubeが流れていて眺めながら待った、かえりがけにメルシーボク、といったらびっくりするくらいの笑顔でMerci, Au revoir!と返っ…

神を失う

甘えられるのが面倒だと避けてきた類のものに、ほんの少しだけなつかれはじめているような心持ちがする七月のはじまり。鬱陶しいから自分で考えてくれよと粗悪な気持ちが芽生えつつも邪険にできなくてそれなりにかわいがってしまう。なぜってわたしが最初に…

祈り

結局のところわたしを救ってくれるのは他者ではなく、大好きだった漫画でも小説でもなく、あらゆる場所に書き残したまま忘れてきた文章なのだと思う、散々な気分のときに吐き出した言葉の粗雑な繋がりを目で追っていると、自分の輪郭をくっきりと感じ始める…

ほんとうのわたし

サッカーと青春パンクを好んでいたはずの弟に招かれ、部屋に入ると大きな本棚が据え置かれている。知らない作家の古い文庫本や、大判の画集と写真集が揃ったそれをしげしげと眺める。あんたマン・レイなんか好きなんだっけ? そう尋ねたのに答えが返ってこな…

ugjbv.

主体は行為の結果でしかないというなら、目の前の人の中に映るわたしは、わたしがとった行為の評価にすぎないのだ、というようなことを考えて、絶望する毎日。嘘ばかりついている。ここをでてしまったらよそじゃやってけないよ。そうやって釘をさされたらぷ…

Orlando

騒音の後、静けさがいっそう深まるのはなぜか、科学的な証明はまだない。だが、求愛された直後のひとりぼっちはまたひとしお身に沁みる、というのは多くの女の証言するところだ。大公の馬車の音が消えてゆくと、オーランドーはひとりの大公がどんどん、どん…

idfjb.

ここであなたのことを何度も書いていることに気づいているでしょう? もっともわたしが見ていたあなたもあなたが見ていたわたしも、それぞれが自分を映した虚像だったわけだから本当にあなたのことを書いているという自信はないけれど。自分を見ているような…

zhboa.

人間は欲深い生き物だ、とはよく言ったもので、あの人の中にはわたしの手で抱えきれないほどの欲しいものが渦巻いていることがはじめからわかっていた。誰ひとり叶えられっこない完璧な夢をすべて手渡されてしまったらたまらない。だからわざと、捨てるわけ…

xwcae.

「コーヒー」と彼女が言うのを初めて聞いたのは京都に降りた早朝だった。安い夜行バスで凝り固まった頭蓋に聞き慣れない抑揚が響いたままひっかかるように残っていた。もしかしたら北の訛りかもしれないと思いを巡らせながら、ふたりとも縁のない土地で、生…

lfhkb.

あと少し手が届けば全部がわかるのに決して到達することのない夜は時折訪れる。昨日から今朝まで夢中になって読んでいたのはウラジーミル・ソローキン『マリーナの三十番目の恋』、男とのセックスでオーガズムを得たことも女を心から愛したこともないレズビ…

egksn.

電車に乗ると隣には若い男女が座り、つい聞き耳を立てる—二人とも関西の訛りがあり、付き合ったり寝たりはしていないがお互いにそれなりの好意は持っている様子。職場の同僚か。男はしきりに寒くはないかだとか女の体調を気遣う。女は声優か何かの推し活に勤…

imfrb.

気が張っていた1週間だった。明るい夕方に仕事を切り上げて天気雨の中を歩いていった。赤信号で立ち止まって見上げると、ぼやけたビニール傘に幾粒も雨粒が乗っていて、灰色の雲が立ちこめて、ぶつ切りになった光の白さがまぶしかった。じっとりと水分を含…

klgob.

変化というものは物事の内部からゆるやかにわきおこる進行なのであり、例えば戦争に敗れたときのようにすべてが翻ることはほぼ起こらないのだろうと考える一日。後者であればわかりやすい—「今日から変わりました」というようないわば公的な報告のようなもの…

dfghj.

暑い日曜日だった。洗濯物を取り込むと茶褐色の蛾がとまっていた。翅は厚く、じっと動かなかった。咄嗟に窓を開けて思い切りふると同じ色をした鱗粉だけが服に残った。その粉も手で叩いて払い落とし、窓を閉めた。 少し前の夕方に玄関を開けると大水青が落ち…

Nocturne Op.9 No.1

Chopin: Nocturne No.1 In B Flat Minor, Op.9 No.1 - YouTube ショパンでいちばん好きなこの曲のはじまりは6つの単音がなめらかに連なったのちに7つ目の音から深い和音になるのだけれど、その瞬間に頭の中が真っ白になって胸がつかえて息ができなくなる。…

Tehillim

youtu.be この曲で行われていることとはひとつのおおきな構成物を解体したのちの素材に新たな側面を見出し編集すること、そしてその行為が脱構築(ミーハーで便利な言葉!『愛がなんだ』を観て以来に言った)といえるだろうか? ひとつの方向に巻きとられな…

oiuyx.

隣に座った人が、夏のいっときだけ会っていた人とよく似た匂いで—煙と何かが混ざった薬品めいた不思議な匂いは馴染まなさを含めて無性に好きだった—思い起こすことそれ自体がもつ感傷が呼びだされる 律儀にバスに揺られたこと 道中で見た手入れされていない…

ygfkb.

海の近くへ行った。陽が服の上にたまってゆくような心地に包まれながらバスに揺られると、立ち並ぶ家、新しい店構えと古ぼけた軒下、走る人、大きな河口とつぎつぎに景色が移りかわる。あの川に舌をつけたらどんなふうだろう。春の温みと生半可な塩辛さを想…

sojgu.

言葉の端々を、破れた包装紙のように色とりどりの言葉を、あらゆる媒体に零していく。シャープペンシルと、フリック入力と、キーボードで、心底思っているのか本当は思っていないのか判別不能な言葉をぼとぼとと零していく。息をしながら都会の桜を見られる…

xgjlb.

この間までジュディス・バトラー『ジェンダー・トラブル』を読みながら(今は中断している)アレサ・フランクリンを聴いていた。 youtu.be —あなたは私を当たり前の女のように感じさせる 当たり前の状態が「さもそうであるかのように」と表現されることで完…

ewkgv.

違国日記を読むようになってからふと少女小説という存在を思い返す機会が増えた。きらきらした気持ちだけで読み耽っていたのにつまらない成長の喧騒にたち消えてしまった物語はいくつもあるけれど、一番読み返したいものはなんだろうと考えて、荻原規子『西…

fdukg.

" data-en-clipboard="true"> " data-en-clipboard="true">従弟の現実の不在は、生身であったはずの、私の知る彼自身の映像を私から遠ざけたばかりでなく、逆に彼がこの日誌のなかにことごとくその姿を現し現前することによって、私をして私の友であった少年…

qkfgs.

自転車を漕ぐような速さで流れる雲をみていた。「あらゆる枠組みを疑い始めたらどうやって暮らせるというの?自分が見ている世界は本物かそうじゃないのか、感染症が流行し始めてからずっとこんな気分だ」と、去年の今日には思っていたらしい。去年の昨日は…

wbdoa.

アーケードに入る直前に見上げると満月だった。だいたい丸いとかではなくて完璧に円なんだな、と単純なことを思った。そういえば先日、零れたものを受けるような形をした月を見たのが印象的だったのだけれど、あの月に名前はついているのだろうか。 なんとな…

pfcxs.

今の仕事は随分性に合っているけれど突き詰めれば私は個人志向だから出世はしたくないな、と長らく思っていた。結局一番向いていたのは(知識云々の有無は別として)カウンセラーだったのではないかと何度も感じる場面があった。他人の話を聞くことはとにか…

wijdy.

詩情もクソもない日が続く。先般『存在の耐えられない軽さ』を観た。原作を読んだ際はテレーザのありようを受け入れることができなかったのだけれど、ジュリエット・ビノシュの天真爛漫でいて色濃い影のある表情がたまらなく良くて収まりがついたような気分…

dbyuw.

Fについての話をしようと思う。Fはかつて恋人だった人であり、今では—私の認識する限りでは—友人という体裁を取っているはずだ。友人と呼べるかも躊躇われるほど久しく会っていない。最後に会ったのは、誕生日を祝う言葉をかけたから、冬だったのだと思う。 …

kgfts.

他者に対して何かを伝えるということは、何を伝えないかを選択し続けることであり、自分の認識すべてを伝えるということは不可能であると知ることであり、自分の認識のうちどの部分を/どの範囲までを伝えたいのか線引きをし続ける作業であり、初めて自分の…