『オー！スジョン』を観て、初めてセックスしたときのことを思い出していた。いや、思い出そうと試みていた。 どうせ、考えてること同じでしょ。そんな台詞をかけられながら床に横たわったような憶えがする。肩を押されてベッドに横たえられたような気もする。相手の家ではなくて、わたしのアパートだったようにも思う。どうせ考えてること同じでしょと、なし崩しに合意を形成したのは、別の日に、別の人と、だったかもしれない。相手はきれいさっぱり忘れているだろうけれど、もし記憶しているなら、何をどのように憶えているのか。わたしのもつ朧げな思い出と、ジグソーパズルの破片ひとつふたつは同じかもしれないけれど、できあがった全体はまるきり違う像を為しているのだろう。
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こんばんは、おねえさん、世界一綺麗な人が歩いてるなと思って。何百回と繰り返されたであろうその台詞は、こんばんは（挨拶）おねえさん（対象への呼びかけ）世界一（極端なインパクトと驚き）綺麗な（賞賛＝相手へのメリット）と、なかなかテクニカルなんじゃあないの。合格？ リテールのセールスとナンパはファーストコンタクトの数秒間にどれだけ相手へのメリットを訴求できるかが勝負どころだろう。興味を持ってもらおうなんて思うのはナンセンス、だってみんながみんな自分にしか興味がないのだから、自分のことを気持ちよくさせてくれない人に１秒だって時間は使えない。わたしはこうして、わたし個人にかけられた、誰にでも通用する言葉によって大衆になる。世界一綺麗な記号と化してゆく。
