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隣に座った人が、夏のいっときだけ会っていた人とよく似た匂いで—煙と何かが混ざった薬品めいた不思議な匂いは馴染まなさを含めて無性に好きだった—思い起こすことそれ自体がもつ感傷が呼びだされる 律儀にバスに揺られたこと 道中で見た手入れされていない花壇 うだるような暑さ クーラーがきんきんに冷えた部屋の独特な居心地 タオルケットからたちこめる他人の甘やかな匂い 硬い青色のバスタオル 狭いシャワールーム 深夜に食べたラーメンの微妙な味 25歳だったこと 思い起こすということはそういったすべてのこと
 
今朝は青空文庫漱石文鳥を読んだ
ひしめく人たちを連れてゆく電車の中 隣に立つ男の人は目をとじてうるさい音楽を聴いていた
 

読みたくもなかったはずの「文鳥」を読み終えてただ泣いている朝 —早坂類