zhboa.

人間は欲深い生き物だ、とはよく言ったもので、あの人の中にはわたしの手で抱えきれないほどの欲しいものが渦巻いていることがはじめからわかっていた。誰ひとり叶えられっこない完璧な夢をすべて手渡されてしまったらたまらない。だからわざと、捨てるわけにはいかないものってなんですかと尋ねた。案の定眉を寄せて困り果てた表情を見せたあとにぽつりと落ちてきた、ぼやけた輪郭の破片を執拗に切り出してゆくとすでによく知ったものが残った。半年ほど前には毎日のようにあの人に会っていて、会う度にわたしは過信と自信喪失の間を頻繁に行き来して胃の不調と頭痛に悩まされ続けていたのだった。軽い調子で根底を揺さぶるような言葉をかけられた夜にはこんなに簡単に肯定されてしまったことに絶望してすべてを放り出したかった。今書けばなんて些細で情けないことだと笑えてくるのだけど。最後に粘り勝ちを手に入れたことは揺るがないけれどもう二度と同じ気持ちにはなりたくない。とにかくフラットな状態でいたい。
 
と書いたのは今年に入って三週間ほど過ごした日だった。それからしばらく遠ざかっていたがまたその人に会った今日のこと、あの人は優しい口調で上手にまるごとをつつんでいたけれど、結局のところ私を値踏みしていたに過ぎないのだと決定的に気づいてしまった。私だけではなくて他の人に向ける眼差しや言葉も同じ類のものだった。違和感と不調に合点がいった。その結果としての綻びと、それを隠そうとする言葉、原因を外部要因になすりつけようとするうわすべるだけの言葉を目の当たりにして、心底幻滅した。私は1年でこんなにも変わってしまったのだ。時代をとりまく空気の恩恵を受けてきた「良い」とされるもののうわっつらを剥がす根性が要ること。まわりの評価ではなくて自分の目で見たことを信じるしかないこと。そのことがわかって、私にはできるとわかって、心底うれしかった。