imfrb.

気が張っていた1週間だった。明るい夕方に仕事を切り上げて天気雨の中を歩いていった。赤信号で立ち止まって見上げると、ぼやけたビニール傘に幾粒も雨粒が乗っていて、灰色の雲が立ちこめて、ぶつ切りになった光の白さがまぶしかった。じっとりと水分を含んだ空気が重く纏わりつく。たどりつくには何層も膜を破っていかなければならないのだ。
 
金髪で歳下の気が強い女の子は澄んだ声で歌った。細くひろがるような声で音程はたどたどしく震えていた。スピーカーからその曲を流して彼女が歌ったフレーズを口の中でつぶやく。喉と舌と上顎でなぞってみる。取り出さずに転がすようにしながら。知らないことがあまりにも多かった彼女の生まれたばかりのような声と、あおい光を浴びて伏目がちにした姿を思い出しながら。そのメロディを何度も繰り返すと、意味がひとつひとつ剥がれ落ちてゆくようだった。一度きりしか聴かなかった彼女の歌がとても好きだったと今更になって気づいた。