滝を見に行った。そこは多少ひんやりした場所でいたるところから水が湧き出ていた。池にぬめっとした黒さのにじますがたくさん泳いでいて、よく目を凝らすと一匹だけ真っ白い魚が見えた。漂白したように真っ白だった。しゃがんでしばらく見ていたけれど、アルビノのにじますは一ミリも動かずに、池の底にじっと沈んでいた。

死んでんじゃないの。生きてるよ、死んだら浮かぶもん。

道中で、片方のイヤリングと2枚のスカーフを見つけた。イヤリングはショッピングモールの雑貨屋に売られていそうなぴかぴかした銀メッキのもので、柵にそっと置かれていた。薄いスカーフは2枚とも木の枝にくくられていた。本来なら日常の中にあったのに突如観光地に放り出されてしまった装飾品は、数えきれないほどの訪問者の目に晒されて、瞬時に忘れられる。もう二度と持ち主が拾いにくることはないだろう。凛とした涼しさの中で永遠に置き捨てられた他人の物が持つ時間のことを考えた。

滝までは山道を行かなければならないと聞いていた。平地に車を停めて、道案内に沿って少し歩くと、その山に入るまで折り返し階段が備わっていた。その階段を上っていく。階段に入ると途端に周囲の景色が見えなくなる。5段上ると踊り場があり、踊り場をぐるっと回ってまた5段の階段を上る。突然正面から下りの人が現れて、少し身を捩ってすれ違う。その行為が妙に果てしなく感じた。どこまでもこの階段を上り続けて目的地に辿り着かないんじゃないか。そう思ったけれどもちろんそんなことはなかった。

滝に着くと、切り出されたような崖から大量の水が落ち続けていた。顔に水飛沫がかかって冷たかった。岸の断面を見ていると、さっき見た落とし物のイヤリングやスカーフとは比べものにならない時間の経過を感じて恐ろしかった。人間の介在しない時間というものが確かにあり、本当はそれらのほうが遥かに大きな熱量を持っているのに、私は大体そのことを忘れてしまえる。そういうときばかり、どうしても知覚の有限さを考えて、悔しいような気持ちになる。