美術館と映画館と本屋をはしごして、夜に帰るときはいつも東京駅の八重洲口から出るバスに乗って、窓から夜の首都高を眺めながら聴いていた。世界にはまだ知らないもののかたまりがひしめきあっていた。何もかもが無限に広がっていて全部きらきらしておもしろいように思えた。それでいて自分のまわりのことは斜に構えて見ていた。いつも倦んでいて、いつも立ちくらみがした。たった今この瞬間に自分のことを考えている人が誰もいないということにいちいち絶望しては落ち込んでいた。なんとなくずっと誰かのことを考えていて、なんとなく誰かがいつも一緒。夜中に呼び出されて誰かの家で飲んで明け方に帰るのが大事だった。毎日何も変わらなくて、何かをずっと待っていた。そういえば、渋谷の、ブンカムラの脇を通ってアップリンクまで行く道の電柱に、春の小川って書いて貼ってあったよね。CD持ってるけどパソコン買い替えた時にデータ壊れてからずっと聴いてなかった、初期の柴田聡子

春の小川

春の小川

  • 柴田聡子
  • シンガーソングライター
  • ¥255