2月に入ってからは精いっぱい目の前のことをこなす、という日が続くけど、ぱっと玄関を開ければ薄紫色がたなびく空の向こうに鋭利な輪郭の雪山が見えたり、大きな川にかかる橋を渡りながら白鳥を眺めたり、ぽつねんと建っている古びた東屋に座って音楽を聴いたり、山のふもとに並ぶ家並みがモーリス・ユトリロの絵みたいだと思ったり、雪道に続く犬の足跡を辿ってみたり、窓から見える小さな神社の入り口にいる狛犬の背に重たい雪が積もっては溶けてなくなっていく。ずっとそういうものばかり見ている。嘘みたいな日が本当に続いているんだなあと思っている。今読んでいる本には多くの人が入れ替わり立ち替わり出てきてはいなくなる。人は国境を軽々と越えて旅に出て、誰もそれを追わない。縋ったり探しにいったりしない。たまに電話がかかってくるだけ。その人のことを忘れてしまっても淡々と詳しく書き続ける。好きな人のことを忘れてしまいそうだと思う。こんな本を読んで川ばっかり見ていたら。明日はバレンタインデーで、きっとたくさんの人が忘れられない夜のことをいつまでも特別にしておきたくて、恋に狂うんだと思う。