2023-01-01から1年間の記事一覧

カイロス/落伍

カイロスと眩暈の中で知らされるチューリップの名と伯父の帰国を ゆみちゃんと呼ぶ人が祖母であることを受け入れぬまま茄子をほおばる 敗北を寿ぐごとく綻びる蕾を見やり口ずさむ歌 落伍という文字を思えり おんなであることを捨てゆき鎧も落ちる 決断と決断…

くらげ界3と43のゲストは中村理奈さん、4のゲストは川上雨季さんです!・セブンイレブン〈3/17 23:59まで〉RAC2DYD7・セブンイレブン以外〈3/18 18:00ころまで〉YTBZRDXHR8→「くらげ界3と4」を選択— くらげ界 (@kuragemogenai) 2023年3月10日 前にお声がけい…

2月に入ってからは精いっぱい目の前のことをこなす、という日が続くけど、ぱっと玄関を開ければ薄紫色がたなびく空の向こうに鋭利な輪郭の雪山が見えたり、大きな川にかかる橋を渡りながら白鳥を眺めたり、ぽつねんと建っている古びた東屋に座って音楽を聴…

写真を撮ってもらう機会があった。写真に写るのがわたしは大嫌いで、だから早く終わってくれ、と思いながらがちがちに強張った笑顔をつくり、しばらくレンズを向けられた。はい終わりましたと声をかけられて気が緩んだ瞬間、その人は「もう少しいいですか?…

古井由吉が死んだ頃、ときどき歌舞伎町に行った。わたしは痩せていて、ひどく惨めだった。昼間は時計が止まっているのかと思うくらい退屈だった。髪を伸ばしてスカートを履き、人前でほとんど食べなかった。会ってすぐの他人に言われることをすべて信じきり…

「水槽いる人いますか?」という書き込みに「ほしいです」と返信したら「今アパート?下に降りてきて」といわれて、そのとおりにすると通りの真向かいに水槽を携えた人が立っていた。白いビニール袋を受け取って覗きこむと、うっすらとなまくさい生き物の匂…

こちらに越してきて一息ついた途端にどかどかと大雪が降り、今も降り続けている。朝、晴れ間を縫って外へ出たら真っ白な雪が視界のすべてをふかふかと覆っていて、数歩踏み出して見渡し、ただでさえ物慣れない土地の歩いてゆくべき道がわからなかった。消雪…

生活は自分の匂いがしみついたものが身の回りを取り囲むことによって形づくられていったのだと思う。それらのものを片っ端から放り込んで封をした段ボールが積み上がってゆくと、もういたたまれなくなって日中は文庫本だけ持って喫茶店で頬杖をついて時間を…

あなたにはじめて会ったのは今日みたいに骨の中までしみてくるような冷たい雨が降る日だったと思います。あの日あなたと別れたあと、あたしは駅のホームでぼんやり立ち尽くしてあなたが買ってくれたビニール傘の白い持ち手を握りしめていました。月の一度の…