写真を撮ってもらう機会があった。写真に写るのがわたしは大嫌いで、だから早く終わってくれ、と思いながらがちがちに強張った笑顔をつくり、しばらくレンズを向けられた。はい終わりましたと声をかけられて気が緩んだ瞬間、その人は「もう少しいいですか?今素敵だったんで」と言い、すばやく数回シャッターを切った。何をどう見ているんだろうと思った。細部を見ながら切りとる感覚を持ちあわせている人の視界を一度借りてみたいと思った。

 

写真を撮られたことと、李昴『眠れる美男』を読んだことが重なる。その話の中で眠らされる男はスポーツジムのインストラクターで、若くて、本はほとんど読まないけれど選ぶ言葉に感性が光る不思議な魅力を持ちあわせた人物。眠る男が、以前会った人によく似ていると思った。撮ることを仕事にしている人だった。その人の魅力が何だったのかよくわからない。世界を不思議な方法で見ているように見えた。わたしが好んで本を読むことを珍しがっていた。突拍子もない話を聞かせてくれた。

 

近いうちに会うことになった人がいる。お互い人づてに話を聞いているだけで、連絡もとっていない。彼女は会うことを心待ちにしているようで、時折わたしの話を出すと聞いた。まだ会わないわたしのことを彼女はどのように想像しているのだろう、と想像する。わたしについて何がどこまで彼女に伝わっているかわからない。伝え聞いた断片的な情報から、きっと素敵な人として期待を膨らませているのかもしれない。これから知り合うことになる人が楽しみに待っていると思うと純粋に嬉しい。彼女に会ったらどんな話をしようかとぼんやり考える。