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白い皿が手から滑り落ちて、こんなときふと時間が止まったように思うのはなぜなんだろう。視界から消えてゆく軌道をゆっくりと目で追いながら、壊れる瞬間が怖いからいまだに大事なものを所有できないのか、壊しても大丈夫なもので身のまわりを固めるのは楽だな、祖母がくれた急須をとても大事にしていたのに最後には落としてきれいなまっぷたつになってしまったっけ、高校を卒業するときに担任がくれた綺麗な模様の皿は引っ越しの最中に母が割ってしまって責めるわけにもいかずやるせない気持ちをしばらくは持て余していて、などと駆けめぐる、つまらない内省と記憶と。ざりんと嫌な音をたてて地面に放り出された丸い皿は量販店でいつでも手に入る。大きく欠け落ちた造形を確認する気にもならず、かといってすぐに処分の準備をする気も起こらず、流しの下に備えつけられた扉を開けてぞんざいに放り込んだ。
 
今週出くわすひとは決まって、え、別の人かと思ったよ、と目を丸くする。胸のあたりまで伸ばしていた髪を耳の高さまで切ってしまって、何度も驚く顔を見せられるとなんだか世界を裏切ってやったような気にもなってきて、すっきりして気持ちがいいなあと上機嫌で寒風に首を晒していたわけだけれども、おそらく20年も前のこと、ぱっとふりむいたら、なんだ男かと思った男みたいな髪型してるから、とぶつけられた言葉が衝撃をもって胸に沈みこんでしまったのだった、それだけが原因ではないけれど色々なことを諦めがちなこどもだったことを、思い出したりして。だから、パーマのかかった髪は俯けば視界の輪郭を縁取ってゆらゆらと、わたしの視線を隠して安心させながら、やんわりと縛りつけてくれていたのだと思う。