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あなたは仕事のため遠出しなければならなくて、柿色を目印に中央線快速に乗り込む。まどろみながら数駅を過ごし、ふと気がつくと目的地とは随分かけ離れた方面にいることに気づく。焦って下車したあなたはその駅の名前を確認し、携帯電話を開いて乗り換え経路を検索するけれど、その駅はどこにも存在しないらしい。あなたは途方に暮れて立ち尽くす。そうしているうちに幼い男の子が走り寄ってきてくれるが、何ひとつ対処法を提示してくれない。仕事が始まる時刻まであと50分を切り、間に合うかわからない。あなたは突然あらゆることにうんざりする。わからないなら仕事など辞めてしまえばいいと思いつく。荷物を放り出し、目を瞑って、あなたがすべてを放り出した世界をこれから想像する。

 

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憧れのひとの誕生日、プレゼントをもって教室にいく。授業の終了を告げるチャイムが鳴り、まっさきに駆けよって渡したい。しかしそうできない、雑多な荷物とまとめてぐちゃぐちゃに放りこんでしまっているから。椅子に座ったまま身動きできずにいると、別の女の子が嬉しそうに贈りものを手渡してしまった。わたしがいちばんになりたかったのに。頭が真っ白になりながら鞄の奥底のプレゼントを探し出す。ぴかぴかの新品だったはずのそれは褐色の汚れに覆われていて、いくらぬぐってもちっともきれいにならない。こんなものあのひとに渡せない。諦めてふたたびプレゼントをしまいこみ、ひとりで一心に物語を書いていた。女の子ふたりの友情とも恋愛ともつかない話、ひたすらに大事に思っていた。

 
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バスに遅れそうになったの覚えてる? と言われた次の瞬間にばっと思い出した。手を掴んでひっぱられる強さと自分のものじゃない走る速さ、そんなものあのときまで知らなかった。ああ彼は私と違う人だとまるで頬を叩かれたくらいの衝撃をもって理解したんだった。それは私だけの些細な感覚で済まされたのかもしれないけれど、どうしても言わなくちゃならないような気がして、帰ってきて何週間も経ってから告げた。 ライターをつける音を挟みながらそんなことを大事そうに話すのを聞いていたら、どうしようもなく胸がいっぱいだった。わたしはどうしてこんなに大事なことを忘れていたんだろう。どうして全部なかったことにしちゃったんだろう。 あっけらかんとだだっ広い大通りと馴染みのない明るさを孕んだ空気、底抜けに晴れた空と雑草の緑が眩しかった。10代までのわたしが知ってた海の色じゃなかった。なんだか器官の全部が新しくなったような気がして、彼のよく知る土地と対峙していた。
 
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年始に観た映画の中では、額と額を合わせて片方が念じれば意思が通じるのだと説かれていた。そんなこと、と思っていたけれど、ほんとうに思っている人にさわられてしまえばなにひとつ抗えない。ぜんぶがやさしくて、ぜんぶがわかってしまって観念した。何も捨てたくない。ずっとおしこめていた箱をあけなくちゃならない。大人になることは残酷で、たまらなく愉しくて、果てのなさに絶望する。