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果たして何を書いているのかと我に帰って絶望の淵に立たされながらも安寧すら選べずにただ漠とした不安が目の前にひろがってゆくばかりだ、とあなたはいった、それがどんなに苦しいことか少しは想像してほしい、とも縋るような目をしていったけれど、あたしはあなたのそんな顔を見せられたって何も感じなかったんだわ。あたしは何も変わらずに毎日昼も夜も関係なく渾々と眠りこんでいるばかりです。ときおり目が覚めるとカーテンの隙間から日光が差し込んで、細かい埃が透けてきらきらして見えて、冬の光はなんてまじりけのないものかとうっとりする、そのまま毛布をずり上げてまた暗闇にしがみつくのです。近頃は大雪の夢ばかりだわ、道をゆきたいのにあたしの胸の高さまで積もった雪がゆくてを阻みつづけて、しまいにはこちらへどんどん迫ってきて世界中のすべての音を吸いとってしまうから、あたしはすぐに息ができなくなって苦しいの、狭くなる気道や血が通わないつまさきを感じながら目をぱちぱちして立ち尽くして、もうどうにもならないと頭の中が真っ暗になってしまう、そうしたらまた自分で目を開けて布団の中からうつくしい光を見ることができるのよ。アンナ・カヴァンが書いた『氷』のようなこの重苦しい夢から覚めた瞬間のいっときの甘さをあたしは気に入っていて、ヘロインを打つ代わりに眠るのがやめられないんだわ。砂糖のたっぷり入ったミルクを舐めつづけるような作業。眠りつづけたらいつか脳みそがどろどろに蕩けてしまって蜂蜜のような匂いに変わるんじゃないかと想像する、そうしたらもう何日も掃除をしていないあたしの部屋は蟻だらけになるはずよ、巣をほじくり出すと蠢く白い幼虫はおぞましいけれどどこまでも無力でしょう。あなたがあたしを可哀想だと思っていたの知ってるわ。あたしを見ているときは捨てられた子犬を見る目と同じだったもの、そういうふうに弱くて道を踏み外してしまった生き物を庇護している自分に酔いしれていたんだわ、子犬になることを誰よりも望んでいたのはあなただったくせに。こんなことをいったらあなたは傷つくと思うわ、でも今こうやってあたしの考えていることなんててんで的外れなんだわ、だってこんなにとろけた脳みそしか残っていないんだもの。 と、彼女は話し切りそして糸が切れるように眠りについた。