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黙りこみたいときに意味をもたない会話で隙間を埋めつくす方法は会社に通うようになってから会得したのだった。私が電話を代わるって言ったんですか、と怪訝そうな空気がまる聞こえで届いたのち、甲高い声が受話器に近づいた。話したいことも思い浮かばず咄嗟に、医者にかかったことを滔々と話してみたところ、ひとりでいると心配なんだけど、と声色がくぐもった。会話選びを誤った自分に苛立った。遠回しに、しかしはっきりと、しばらくは都会に留まるよう釘をさされた。終話ボタンを押してしばらくすると、自家用車にひどく積もった雪の写真が何枚か送られてきた。陰惨な白さだった。
 
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あのひとは待つのが上手い。いつまでも待っているそぶりなど見せない。こちらが眉を顰めれば飄々と退いてどこかにいってしまう。走って逃げきれたと安堵して、忘れたころにばったり姿をあらわす。さらさらとかるく耳に心地よいことばをくれる。そうなるとわたしは、なんだかすべてのことがどうでもよくなってしまって、何も考えずに手のひらの上におさまるのがきもちよくて、うっとりと瞼をとじてしまうのだ。はっと目を覚ますとあのひとのシナリオにのっている。もう何度目だろう。このあとの展開もよくわかっている、蕩々に絆されたわたしが飛び起きて、我に返り、困り果てて、逃走を試み、その反復をなぞる。鸚鵡の覚えた挨拶のようにくりかえす。瞼をとじる。