中島らもの墓を訪ねる。彼は死んでいたけれど死んでいなかった。下の方の、不思議なところから声が聞こえていた。とにかく行かなければいけない、今すぐ出発しなければいけない、という思いに駆られて旅に出ることに決めた。黙って側にいてくれて、一緒に来てくれる人がいた。そういう夢を見た。
「うるさい」
おれはキーボードをてのひらで何度か叩きつけた。画面の上の文字が消えた。
誰かが、頭の中に、かすれた声で話しかけた。
「さあ。もういいでしょう。始めてください」
おれは頷いて、またキーボードに向かって打ち始めた。
—中島らも『永遠も半ばを過ぎて』