正しさ

アイシャドウがなくなって捨てた。化粧品や花を捨てる一瞬の陶酔が好きだ。冬の雨はまるで氷に変わる寸前。喪失は誰にも気づかれないひそやかなものであるべきで、その後を、ぽっかり空いてもう戻らない空間を眺めて、温度のない生活を繰り返して、ひとりきりで咀嚼する過程をどこかに残しておかなければならない。忘れないように。自分がどんなに愚かだったか。その報いとして苦しんだことを、きっと許してはもらえないことを、罰として、ずっと忘れないように。そうしているときは一生忘れないと誓うけれど、今になってはひとつも思い出せるものがない。変わっていく自分を想像できない、とこぼしたら、でも二年前と比べて随分変わったでしょう?と。二年前は何も知らなかった、どこかに行けば世界がきらきらして見えるはずだと信じて疑わなかった、一枚剥がしても二枚剥がしても地団駄踏んで叩き続けても、何も出てこないことを知らなかった、どこまでいっても空っぽなまま立ち尽くすしかないことを知らなかった。大事にしていないものは失われる。今だって何かわかったことがあるだろうか? 言葉は本当に何かを伝えるのだろうか。意味とか、感情とか、ほんとうのこととか。本当なんて全部嘘。薄っぺらい言葉で全部を説明してみせて、わたしを納得させてみせて、初めから尽きるほどの言葉なんか持っていなかったことに気づいてよ。そしたらあなたは膝をついて、はじめて喪失を引き受ける。ひそやかな喪失が厳かにあなたの元へ到来する。あなたのそんな姿は馬鹿馬鹿しくって見てられない。それなのに、わたしはその光景を、喉から手が出るほど、思い描いてしまう。