Under My Thumb

髪型を変えたのかと尋ねると貴女が可愛いから真似たのだと言われた。予想していなかったし、居心地が悪かった。私がいない場所で私のことを思い出さないでほしいと思った。
 
ミヒャエル・ハネケのピアニストを観た。母親との確執の話をした流れで何度か勧められたことがある。イザベル・ユペールの低い声が好きだ。観終わって、楽器を弾けなくなってよかった、と妙な安堵があった。楽器は好きじゃなかった。母の話をするのだって相手の気を引くためだった。
 
自殺する夢を見た。死んだあともなお普通の暮らしを送っていて、いつもどおりやりたいことはあるのだけれど「何をやったところでもう死んでしまったのだから意味がないし」と、味わったことのない虚無感に見舞われた。母親に電話して自殺したことを謝った。取り返しのつかないことをしたことはわかっていて、だから誰かに許されたかった。母は慰めてはくれなかった。葬式は次の日曜に決まったと告げられたが「式なんてしないでほしい、誰にも知らせないで」と必死で頼んだ。自分のために知人が呼び寄せられるなんて耐えられなかった。母は遠回りに私を責めてきて、それがつらかった。電話越しの音楽がうるさくて「よく聞こえない」と言ったのにもう返事は返ってこなくて、ただうるさくて、うるさくて目が覚めた。その日は憑き物が落ちたように清々しい一日だった。