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私と弟の下にはひとりの妹がいることを突然知らされた。というより、さも既知の事実だったかのように引きあわされたのだった。初めて会う彼女は憔悴しきった様子ですぐさま酷い嘔吐を始め、そのまま精神科へ連れていかれた。何らかの疾患が見つかり治療が必要だそうだ、と親族が話していた。 彼女はこれまで、どこでどのように育ってきたのだろう。なぜ私には彼女の存在が明かされなかったのだろう。事情を究明すべく弟を呼びつけて、そこで目が覚めた。ショートボブに眼鏡をかけた彼女の名は、真美か、梨沙か、由実だったか。

 
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見切り品のシールにつられて買ってきた蓮根の太いかたまりにピーラーを当てると、確かに芯が通りながらもかさついた音が響く。かつては水と養分を吸い上げていた繊維質がつくる空洞の音だった。薄く輪切りにしてフライパンに放り込むと、白い表面は冷たく乾いて筋ばっており、不規則な穴が無数に並んだ。菜箸で炒めあわせているとまるで、人骨をつつき回しているような錯覚を覚えた。 焼却炉から出された棺を開けると、彼女の躯体を成していた太い骨と、頭蓋骨や歯さえもが一本一本しっかりと形を残しているのだった。喉元に埋まっていた仏はまさに鎮座しているような姿体をとり、居合わせた皆が感心して見入っていた。関節ごとに分断された手足の骨は幼子が不器用に並べたようにも見えた。枕元に置いた冊子の長方形だけが不自然に黒くこびりついていて、無機物が至極高温で燃えたことを静かに物語っていた。 しばらくすると輪切りには火がとおり、先ほど杉の木を思わせた表面にぬめりが出はじめる。ふたたび生命を目の当たりにしたようだった。調味料をまわしかけ、菜箸のまま一切れつまんで口に入れると、濃い醤油の味が舌の上に拡がったのちかすかな焦げが鼻に抜けた。 野暮ったい味だと思った。