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きみがこの世でなしとげられぬことのためやさしくもえさかる舟がある
—正岡豊『四月の魚』
 
パスワードを3回間違えてロックがかかってしまったような脳みそで今これを書いている。水を湛えない水槽と、二度と履かれないスニーカーと、乗り捨てた青い自転車。陳腐にひずんでいく出来事をただぼんやり眺めていたいのに。
 
本当の話だけしよう。視ることは触ることで、聞くことは暴力を被ることだった。窓をあけたとたんに世界が近くなるから思い出した。つややかな果物をもぎとる瞬間の青い匂いと、砂利を踏む音が体内に響く道。地面には毛虫が散らばっていて、夜店に並ぶ人形の髪のような毛糸草が嫌いだった。彼女の白い脚が苦手だった、名前が一文字違いなことが許せなかった、夜に会いたくなかった、わたしのものだから返してほしいと言えなかった。話なんてどうでもよくてただキスしたくて彼女を見つめていた。ひとりで居るべきときにそうしなかった功罪がいま、利子のようにふくれあがっている。
 
寒い思いをしながらしずかでくらいところに居て 三叉路ではいちばんうらぶれた道を選ぶ
見知った人の顔が怖いのは絶対に知り得ないものが底に落ちたままだから
 
大水青が見たい。
わたしが一度も行くことがない場所で、うす白い色をしたうつくしい翅をもつ虫は、どんな死に方をするのだろう。
青と緑と透明が入り混じったあの翅がすきとおって消えていってしまえばいいのに。