mncsz.

そこで行き止まりになるから先に進もうと思ったことはなかったけれど
一本外れれば簡単に歩き続けることができた
その道には青い車と赤い扉と真緑の柑橘がある ふーん、と思った
 
川を覗くとまっくらい水面に街灯の白いひかりが落ちていて
昨日観た映画のたくさんの場面を思い出す
息がとまりそうな瞬間 雨音で泣き出しそうになるほどの原始的な感情
本当は今日も観にいきたいくらいだったのだけど
 
トランペットのベルのかたちをした花が連なって
重たく頭を地面に向けていた 近づくと冬みたいな匂いがした
 
もう4日も続けて実家の夢をみている
真夜中に飛び起きたら心臓がべつのいきものみたいに音を立てて動いていた
記憶はつかわなければいつか錆びついてとけてゆくものだと思っていた
彼女も同じようにわたしを夢にみるだろうか
あのひとはこの冬も白い服を身につけるだろうか
 
あの数分間をことばに閉じこめてしまいたくてそうした
それでも書くことと考えることは違うよ 書くように感じたくない
もう二度とわたしをそんなふうに透明にしてしまわないで