ゴダールが死んだ/嫌いになれない

ゴダールがスイスで死んだ。報せが出てからたぶん5日くらい経ったあとでそのことを知った。驚いた。亡くなった事実にというより、ゴダールが死んだことを知らずに過ごした5日間があったことに驚いた。その数日間は普段と違う場所にいた。暮らしが変われば自分にとって大事なことはさっと変わっていく。

 

そこに着いた夜、その人は妙に怒りながらサッカーを見ていた。次の朝にはフェリーに車を積んで北のほうへ行ってしまった。ろくに話もしない。海から引き揚げられた鮭の写真が送られてきた。ぴちぴちに太った鮭がコンテナいっぱいにひしめいていた。

 

私が生まれるまで毎日パチンコに通っていたという人は、この先数年カンボジアに住むことになったそうだ。これまでずっと人に囲まれたその人の暮らしを想像してみる。来年からひとりきりの異国で仕事をする暮らしのことも。なんとかやっていってほしいなと思う。超ハッピーじゃなくてもいいから、なんとかうまく生活を続けてほしいと思う。それで数年後、できるだけ早く帰ってきてくれたらいいなと思う。

 

さ行が苦手で自分の名前をうまく言えなかった人は、瞼をきらきらさせて、いい匂いをふりまきながらiPhoneをいじっていた。すげえ、目ぇばちばちじゃん、と言ったら、二重にした!と言っていた。カンボジア行くってさみしい?と聞いたら、さみしい!と言っていた。

 

縦抱きにして少し揺らしながら、壁に貼られた世界地図を眺めていた。カンボジアはどこだろうねえ、とか話しかけていると、きょとんとした顔でこちらを見る。眠くなるとこちらの胸に顔をおしつけてむにゃむにゃと喋っている。かわいい。そうしているうちに寝る。寝ると腕の中でずんと重くなる。皆で囲んであやしていると機嫌がよくなって声を出さずに笑う。抱き上げる人の区別はついていないように見える。抱くのが上手なら笑うし、下手なら泣き出す。布団に寝かせれば泣くし、風が吹けば笑う。暗いところに連れていけば泣き、明るくするとにこにこ笑う。粉ミルクをお湯で溶いて、哺乳瓶を口につっこんでやるとすごい勢いで飲む。飲んだあとはほっぺたが膨らむ。腕も脚もぷくぷくに膨らんで、手首や足首は脂肪で埋もれている。首元や足首の境目には糸くずがたまるのだという。わたしもそうだったらしい。大人に比べると記憶が持続しないというけれど、表情は賢しげに見える。人の表情や風景を見ること、光や空気の流れを感じること、そういった知覚を被ることについて、ひとつひとつ考えているように見える。言語以前の知覚。記憶にならない感覚。彼女の環世界に思いを馳せる。わたしも通ったはずだけどまるきり未知の世界だ。

 

 

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白水社多い。ゴダールの中国女まだ観てないから観たい。