急に大きな出来事の中に放り込まれて立たされると、それまで連綿と考え続けてきたことが急に別の側面を見せ始めるというか、自分の中でパラダイムシフトが起こったような気になる。体験したことと体験していないことの間には多分どうしたって埋められない境…

夢の中でルースターズのライブに立ち会っていて、自分でも驚くくらい叫びながら最前列まで走っていって、大江慎也と花田裕之を一生懸命見上げたけれど、まぶしくて目が開けられなかった。ロージーとフール・フォー・ユーをやってくれたと思う。起き抜けのぼ…

みんな好きだと言っている人だったけれど正直なところそこまで思い入れもなかったし、というよりはそのバンドがきっかけで苦い出来事があったから余計に聴かなくなったのかもしれない。今じゃ忘れていたことだけど何かのトリガーになっているようないつかが…

義務的な文字の交換だけで顔も声も知らない、というような人たちとのやりとりが増えていて、なんとも思っていなかったけれど、ちょっとしたきっかけでその人の暮らしを垣間見るような出来事があった。この6年間、と書かれていた。その年月をどのような気持…

冬はどうしてこうも幸福な時期なのだろう。否応がなく外で人が集まったり、家で過ごしたりする。そわそわした気分のままなんとなく連絡が来たりして、そのうちに行き来が発生する。だからいつも身の置き所がなくて困り果てたような気分になっていた。気づけ…

たまに聴きたくなって再生するんだけど、小気味良いドラムとかギターのリフなんかをさらさら聴き流して、再生ボタンをもう一度押して音楽が鳴り止めば歌詞もメロディもいつもさっぱり忘れてしまって、だから曲名と曲を結びつけて思い出せるのは今でもほんの…

youtu.be youtu.be youtu.be たまにギター構えてるところが観たいと思ったときのためのメモ。悪魔のようなあいつを観たい。

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ラヴ・ストリームスを観た日はにっちもさっちもいかなくなっていて本当は布団から出たくないし寒いのか暑いのかわかんないし空を見ても晴れてるのかわかんなくてそのうち雨が降り始めたし、靴が濡れることや洗濯物の心配をしながらいろんなことを決めたり選…

出来の悪い作家になっても構わないと勇気を奮い起こすだけでなく—本当に不幸になる潔さも必要。絶望。それに、自分を救って楽になるとか、近道して絶望を省略したりすべきではない。 現実に不幸なのにそれを認めるのを拒めば、自分の主題を剥奪することにな…

書こうと思っていたことはいくつかあったのにキーボードをたたき始めたらすべて吹き飛んでしまった。何も頭に入ってこないのに頭のなかを片付けることもできない。 たとえば白い彼岸花のことや、倉橋由美子が書いた積雪や柑橘について。再読したジュンパ・ラ…

大阪旅行はこれといって特別なことがあったわけではないけれど何か不思議な感触が残るものだった。とりあえず梅田まで行く、ということだけ決めて新幹線を乗り継いで行ったはいいものの着いてみたら入り組んだ道なりやいたるところに張り巡らされた広告に辟…

タクシードライバーと幸田文について

春から東京に行ってタクシードライバーになるんだ、と聞いた。その日の夜に読みかけの本をめくったら、タクシードライバーとの短い恋愛のことが綴られていた。翌朝、目にとまった幸田文の書評を読んでから図書館に出かけると、読みかけの幸田文全集が自習机…

シャネルあるいは遊歩者について

これ使っちゃったんだけどいらない?と差し出すと、え!シャネル!ほしい!いいの!?ありがとう!と言うや否や次の瞬間にそれは私の手を離れ、彼女はすぐさま手鏡を出して、真っ赤な色を唇に乗せたら恋人のところに駆け寄っていった。予想以上に喜んでくれ…

滝を見に行った。そこは多少ひんやりした場所でいたるところから水が湧き出ていた。池にぬめっとした黒さのにじますがたくさん泳いでいて、よく目を凝らすと一匹だけ真っ白い魚が見えた。漂白したように真っ白だった。しゃがんでしばらく見ていたけれど、ア…

小さいけどおいしいピザ屋があってね、寡黙な店主がひとりで切り盛りしてるお店で、今度こっち来るとき声かけてよ。そういう話の流れになって、うん行きたいな、と返事をしながら、その土地の名前が妙にうわずって胸の中にひっかかるのを感じていた。 その日…

実家に帰ると玄関のすぐ前に薄紫色をした花が何輪もぼうっと浮かびあがって、その下に花弁が散らばっていた。赤茶けたような夏の夕暮れの中で、その花の白さだけがお伽話の中で発光しているようで、異様だった。芙蓉の花かなと思ったけれど、どうやら木槿と…

個人的なことは政治的なことであるはずなんだけど、この国においてさまざまな個人の体験が政治に反映されないのは、民主主義という現実めいた幻想を信じながら、そこに参画できずに傍観するしかない仕組みになっているから。 そういえば、自民党総裁選のとき…

どうしてもこってりした恋愛小説を読み漁りたいときがある。3年ぶりくらいにそうなっていて、レシートや使い終わった目薬やノートを破ったページが散らばる部屋で、床の冷たさを吸うように這いつくばって読んでいた。恋愛小説はジャンクフードと限りなく近い…

さわること

人の身体の凹凸が好きで、例えば鎖骨や肩甲骨がくっきり浮き出したところを目の当たりにするとさわってみたり撫でたりしたくなる。外に出たときには、同じように木の幹や枝葉や花びらなんかにさわるのが好きだ。そしていつもどんなにさわっても何も満たされ…

美術館と映画館と本屋をはしごして、夜に帰るときはいつも東京駅の八重洲口から出るバスに乗って、窓から夜の首都高を眺めながら聴いていた。世界にはまだ知らないもののかたまりがひしめきあっていた。何もかもが無限に広がっていて全部きらきらしておもし…

すると彼女は考え込むような顔つきになり、エレーラのほうを見て、次に俺を見てから(と言っても俺よりエレーラのほうをずっと強く見つめていたが)、正確なところは自分にも分からないと言った。血を飲んでいたのかもしれないし、便器に捨てていたのかもし…

会いたい人がいなくても

ゆうべはくたくたになって帰ってきたのに頭の奥深くにある固い芯みたいなところだけが冴えていた。14時間くらい眠っていた。当たり前に色んな花が咲き続けることにも慣れてきた。藤の花をたくさん見た。クレマチスの花が何輪も地面と並行に大きな花びらを広…

ひとりの人間のやることは、多少ともすべての人間のやることなのです。だからこそ、楽園でおかされたひとつの違反が人類を汚すのです。そして、また、ひとりのユダヤ人のはりつけがそれを救うに足りるということが不当ではなくなるのです。おそらくショーペ…

何かを言うことって例えば連綿と太い棒状に続くものを突然断ち切るような行為だと思う。一度きりの行為で生まれるその切り口はひとつの面しか見せることができないから他の側面が生まれる可能性を否定するしかないってこと。発露することと暴力性をあまりに…

DAZNつけてFC東京戦を見始めたら横断幕にかかれたチバユウスケの文字が目に入って、チバユウスケって書いてある、と口をついて、隣にいた母が、休養したミュージシャンの人でしょ、とか言って、そうそう〜とか生返事しながら、それから90分画面に釘付けにな…

わたしのほうがずっと

Reviradoアストル・ピアソララテンジャズ¥153provided courtesy of iTunes

ミルチャ・エリアーデの『マイトレイ』を読んでいる。あけすけな性欲とあられもない恋情と、刻一刻と変わるマイトレイの眼差しや体温がありありとそこにあるようで、心臓をどきどきさせながら本を閉じてひらいてを繰り返している。女ばかりが他者であること…